エンドミルは、外周と端面に切れ刃を持つシャンクのついた細長いフライス(ミーリング)工具で、側面加工、溝加工、曲面加工など幅広い用途に使用します。
一般にエンドミルには次の特徴があります。
・様々な加工形態があり、それに使用するエンドミルの種類が多い。
・細長く突き出して使用するため切削が不安定でビビリやすいので切削条件の設定が難しい。
これまでのエンドミルの主流は高速度工具鋼のソリッドエンドミルでしたが、現在ではコーティング技術と工具材料の開発が進んで、コーテッド超硬合金のソリッドエンドミルと刃先交換式エンドミルが普及しており、金型加工や高硬度材・難削材の加工にも広く利用されています。
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アップカットとダウンカット
切込み
エンドミル加工の切込みは、軸方向の切込み量apと半径方向のaeがあります。スクエアエンドミルによる側面加工ではapとaeが下図のようになり、溝加工ではaeが外径D1と等しくなります。ボールエンドミルによる側面加工では、aeの代わりにピックフィードpf(切込み間隔)が多く用いられます。
ピックフィードとカスプハイト
ボールエンドミルによる側面加工では、aeの代わりにピックフィードpf(切込み間隔)が多く用いられます。右図に示すように、水平面を加工する場合はaeがpfに等しくなりますが、傾斜面を加工する場合は傾斜面に沿った方向の切込み量ae'がpfに等しくなります。apとaeを大きくすれば加工能率が上がりますが、工具と工作機械にかかる負荷が大きくなり、ビビリや工具損傷の原因となります。
ボールエンドミルやラジアスエンドミルで加工する際の理論上の仕上げ面あらさは、カスプハイトhであり、カスプハイトとピックフィードの関係を右記計算式に示します。
ピックフィードを大きくすれば加工時間は短くなりますが仕上げ面あらさは粗くなり、ピックフィードを小さくすれば仕上げ面あらさは良くなりますが加工時間が長くなります。
ap = 軸方向の切込み量
ae = 半径方向の切込み量
pf = ピックフィード
h = カスプハイト
R = ボール半径、またはコーナ半径
ap' = 傾斜面に垂直方向の切込み量
α = 傾斜角
アップカットとダウンカット
エンドミルの回転方向と被削材の移動方向は2通りあります。左下図のダウンットは右図(a)に相当し、アップカットは(b)のセット位置に相当します。軸方向の切込み量が大きくなりがちなソリッドエンドミルの加工方法では径方向の切込み量を小さくせざるを得ないため、フェースミーリングカッタで好ましくないとされるセット位置になります。したがってエンドミル加工では不安定でビビリやすい加工といえます。
送り方向
アップカット
送り方向F
ダウンカット
フェースミーリングカッタのセット位置
a.
b.
- テーブル送り機構の遊びが自動的に除去されるので、旧式の機械でも使用できる。
- 刃先のこすりにより仕上げ面に光沢がでるため、視覚的にはきれいに見える。
- 黒皮や砂かみの加工物に適する。
- 刃先のすべり現象のため、逃げ面摩耗が速く、工具寿命が短い。
- 切削抵抗が大きい。
- 加工物の端部にバリが出やすい。
- 加工硬化材料では、工具寿命がさらに短くなる。
- 刃先逃げ面の摩耗が少なく、工具寿命が長い。
- 切削抵抗が小さい。
- 加工硬化性材料の加工に適する。
- テーブル送り機構に、バックラッシ除去機構が必要。
- 黒皮や砂かみのある加工物では、刃先を傷つけやすい。
アップカットとダウンカット(溝加工)
溝加工時のたおれは。アップカット側に倒れた状態になります。その理由は次の通りです。
(ステップ1)
アップカット側で切れ刃ABの切削が始まると、そこにかかる主分力(オレンジ色矢印)は斜め左下方向を向き、エンドミルはアップカット側にたわみます。
(ステップ2)
切削が進行して、切れ刃ABにかかる主分力(オレンジ矢印)は水平方向を向き、エンドミルはさらにアップカット側にたおれることになります。
ただしこのときの溝の壁付近ではダウンカット側もアップカット側も切削を行っていないので、壁のたおれには影響を及ぼすことはありません。
(ステップ3)
さらに切削が進行してダウンカットで切削する位置に来ると、主分力は斜め左方向を向き、アップカット側からそれてたおれの量が減りますが、エンドミルは依然としてアップカット側に傾いたままです。
このとき反対側の切れ刃A'が被削材に食い込み、過切削をすることで壁のたおれが発生します。
アップカットとダウンカット:加工方法
フェースミーリングと同様に、エンドミル加工でも一般にダウンカットで切削します。アップカットで切削するのは、テーブル送り機構に遊びのある機械を使う場合や、黒皮(鋳物肌のこと)や砂かみ(鋳物表面近くに含まれている砂のこと)のある加工物を加工する場合です。黒皮や砂かみのある加工物をアップカットで切削するのは、切れ刃が黒皮や砂かみの面に直接当たって損傷しないようにするためです。
右図は側面加工時のエンドミルのたおれの状態を示したものです。ダウンカットでは切削抵抗を受けてエンドミルが被削材から逃げる方向にたわみが発生し、そのたわみにより加工面のたおれが発生します。
アップカットでもエンドミルは切削抵抗を受けてたわみますが、そのたわむ方向は被削材に食い込む方向であり、その結果、加工面にうねりの谷部が生じます。そのたわみ量は底刃が被削材から抜ける直前が最も大きくなり、そのときに仕上げ面を削る切れ刃の位置が谷部となります。
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