K系列の被削材は、亀裂形、破砕形と呼ばれる不定形の切りくずが出る、というのが、1958年当初ISOで定められた使用分類記号での基準です。
K系列の被削材の代表である鋳鉄=鋳物は、この破砕形の切りくずが出る際に振動で、刃先にチッピングが出やすいのが問題になります。砕いたような、形にならない切りくずが排出されますので、加工面や切りくずの平滑度が低く、こすり摩耗が発達しやすくなりますが、切削抵抗はそれほど高くなりません。
K系列材料の被削性
しかし近年は、鋳物としてK系列に含まれている高級鋳鉄と呼ばれる材料が、よりネバさや強さを増し、削りにくい材料として扱われるようになりました。
ダクタイル鋳鉄、可鍛鋳鉄などの高級鋳鉄は、必ずしも破砕形の切りくずが出るわけではなく、切りくず処理も考慮に入れなければなりません。
また、これらの高級鋳鉄は切削抵抗が高く、チッピングが発生しやすい上に、切削熱が発生するため、すくい面摩耗が発達しやすくなります。このときのすくい面摩耗は、鋼を切削した際にできるすくい面摩耗より刃先に近い場所にできるといわれています。その上、切れ刃が塑性変形を生じるため、逃げ面摩耗も発達しやすくなります。
そのほか、固溶強化したチルド鋳鉄に代表される高硬度鋳鉄や、熱処理が可能なパーライト可鍛鋳鉄などがありますが、いずれも鋼に変わらぬかたさや強さを持つ上、切削加工時に、黒鉛を組織に持つ鋳鉄特有の高周波振動が発生するため、削りにくい材料と認識されています。
また、鋳鉄の表面は、鋳込んだときに熱で酸化されて非常に硬くなり、さらに熱収縮が起こるため凸凹しているのが特徴です。この表面部分を鋳肌といいますが、見た目が黒く凹凸が激しいことから黒皮とも呼ばれています。黒皮部は、硬く、形状も不安定なため、鋳鉄の切削加工におけるトラブルの多くは、黒皮部の加工を含んだ場合に生じます。
鋳鉄の中には、砂でできた砂型と呼ばれる鋳型に鋳込んで造られた製品がありますが、このような砂型に鋳込まれた鋳鉄は、冷えて固まるときに砂型の砂を取り込んでしまうため、黒皮部に砂が混じっているいわゆる砂かみの状態になります。この砂かみがある黒皮は、さらに被削性が悪化し、工具の寿命が著しく短くなることがあります。
K系列の加工物例:ブレーキディスク
普通鋳鉄
従来、普通鋳鉄を切削する際には、破砕形の切りくずが出ることから、「できるだけが先強度を強くして振動によるチッピングを抑えれば、切削抵抗や切りくず処理はあまり考慮しなくて良い」という考え方がありました。しかし、普通鋳鉄の中でも引っ張り強さが高い材料の使用量が増えるにしたがって、作業効率を上げるために、切削抵抗を抑えるような切れ刃を用いる場合が多くなっています。鋼用ほど多彩な種類はありませんが、各工具メーカが鋳鉄加工用のチップブレーカがついているものを用意しているのは、切りくず処理のためというよりも、切削抵抗を抑えるために選択される場合があるからです。
製造方法と特徴
鋳鉄の製造プロセスは比較的単純です。一般的なプロセスは銑鉄、鉄屑鋳造スクラップ、合金鋼を再熔解することで造られます。
実施の再熔解方法には多くの方法があります。溶銑炉を使って溶解する方法や、誘導電気炉や小さいアーク炉で溶解する方法などがあります。
ねずみ鋳鉄は鋳鉄の中でも最も普及しています。単に鋳鉄というとねずみ鋳鉄のことを指す場合が多いようです。ねずみ鋳鉄は、2.1%から6.9%の炭素と最大2%のシリコンを含んでいます。シリコンはセメンタイト(Fe3C)を黒鉛に変える働きを助けるために加えられます。
ねずみ鋳鉄の組織
黒い線状に見えるのが、片状黒鉛
黒鉛は不規則な薄片状で存在しており、鋳鉄の組織中に黒い線状の形で容易に確認することができます。この薄片状の黒鉛があることで鋳鉄は組織が破断されやすく、もろい性質を持っています。切削を行うと、この黒鉛が潤滑効果によって切れ刃が切込みやすくなるので、切削抵抗が小さくなります。
また黒鉛は振動エネルギーを吸収する働きがあります。したがって黒鉛量が増えるにしたがって、鋳鉄は減衰能に優れる傾向があります。
鋳鉄の強度は鋳造された形と冷却速度に大きく依存します。鋳造品の薄肉部分は引張り強さが比較的強いのですが、厚肉部分では厚みの増加に比例して引張り強さを維持することが難しくなります。鋳鉄の強さは組織中に存在する黒鉛の形状に影響を受けます。鋳鉄中に含まれる炭素のすべてが単独で存在していたなら(完全な黒鉛化度)、組織中の炭素は片状黒鉛となり、記述のように強度が低下します。しかしながらFe3Cとして金属中に0.5%から0.8%の割合で炭素が固溶しているとパーライト組織(フェライトとセメンタイトが層状に重なった状態)となり、鋳鉄の強度とかたさが上昇します。
ねずみ鋳鉄の機械的性質は化学組成と冷却の履歴によって、決定つけられます。一般に炭素とシリコンが減少するにしたがって、鋳鉄の強さが増加します。ただし厚肉部に350MPa以上の引張り強さが必要なときは、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)などが添加されます。
耐摩耗性について:ねずみ鋳鉄は高い耐摩耗性を持っています。耐摩耗性が必要とされるシリンダ-ボアやピストンリングなどの部品によく使われます。
被削性について:合金鋼と比較してねずみ鋳鉄の被削性は非常に優れています。ただし、鋳鉄の中でもパーライト組織を持った鋳鉄は被削性が悪くなります。
ダクタイル鋳鉄
ダクタイル鋳鉄を加工する際は、切りくずが延びるのは、前述したとおりです。さらに切削熱が出るなど、ダクタイル鋳鉄の切削加工は、素材は鋳鉄といっても鋼に近い工具損傷が生じることになります。そのため、鋼の切削と同じような工具材料を選択すると、工具損傷の発達を抑えられる場合があります。
製造方法と特徴
ダクタイル鋳鉄の製造方法は鋳造される前の時点では、普通鋳鉄と全く同じです。鋳造直前に熔解液中にマグネシウム(Mg)が加えられます。マグネシウムは鋳鉄の中にある黒鉛を普通鋳鉄のような片状よりむしろ球状に形成する働きを助けます。この球体状の黒鉛は普通鋳鉄と比較して機械的特性の改善に寄与します。
ダクタイル鋳鉄は普通鋳鉄と同じ低い融点、高い流動性、良好な鋳造性および耐摩耗性を維持しながら、普通鋳鉄と比較して強度と延性を向上させ、さらに被削性を落とす要因となる熱処理についても改善されています。
ダクタイル鋳鉄の組織
黒い斑点状に見えるのが球状黒鉛
可鍛鋳鉄
可鍛鋳鉄とは白鋳鉄を熱処理して作られたものです。白鋳鉄は、炭素がすべてセメンタイト(Fe3C)の形で存在しており、非常に硬いので機械加工が困難です。これを熱処理することで普通鋳鉄に比べて機械的性質を改良することができます。
被削性は普通鋳鉄より悪く、ダクタイル鋳鉄と同じように工具の摩耗が生じやすくなります。
ちなみに、名前のとおり鍛造できるわけではなく、普通鋳鉄に比べてたたいても割れ難いことから付いた名前です。
製造方法
可鍛鋳鉄は白鋳鉄を熱処理することで造られます。また、可鍛鋳鉄は次の2つの種類に大別されます。
1) 白心可鍛鋳鉄
2) 黒心可鍛鋳鉄
白心可鍛鋳鉄
白心可鍛鋳鉄は、白銑鉄鋳物を鉄鉱石または酸化鉄で包み、熱処理によって表面を脱炭させてフェライト(純鉄)とし、延性を持たせたものです。
黒心可鍛鋳鉄
黒心可鍛鋳鉄は白心可鍛鋳鉄と異なり、白銑鋳物を脱炭剤を箱に詰めないで長時間焼鈍し、白銑鋳物のセメンタイトを分解させて塊状黒鉛とフェライトに変態させたものです。
主な鋳鉄の種類
鋳鉄は大別すると、以下の5種類に分けられます。
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