切れ刃の損傷と対策
通常損傷
被削材とのこすり合いによる逃げ面、すくい面の摩耗のみの損傷。
異常損傷
突発的に発生する場合(発生を防ぐ工具の選択や設定条件が必要)
逃げ面摩耗(=フランク摩耗)
原因
逃げ面は常に被削材と接している場所でもあるため、通常の逃げ面摩耗はこすれによって生じる場合が多く、被削材が硬いときにより大きく発達することになります。
このこすれによる摩耗も、切削熱によってより発達を促進されるため、切削熱が上がりやすい被削材、つまり強さやネバさを持っている材料を切削するときも、逃げ面摩耗は発達します。
このとき、刃先がダレ、へタリなどと呼ばれる塑性変形を起こすことにより切れ味が悪くなると、より切削抵抗が上がって逃げ面摩耗が大きくなりますが、これは二次的な要因といえるでしょう。
対策
- 耐摩耗性の大きな工具材種を選択し、切削速度を適切なレベルに下げる。
- 送り速度が極端に小さい場合にも発生しやすくなるので、送り速度を上げる。
すくい面摩耗(=クレータ摩耗)
原因
すくい面摩耗の多くは、刃先の成分が切りくずによって持ち去られることにより発生します。
このすくい面摩耗は、まず刃先が高温になり、工具の組成が不安定になると、より多くの成分が切りくずに持ち去られることになるため、大きく発達します。つまり、切削熱が高くなりやすい強い材料、ネバい材料を加工する際に発達しやすい損傷です。
その他、熱伝導率が高い材料を加工しても、刃先に熱がたまりやすくなるため、すくい面摩耗が発達することになります。
また、刃先を構成する成分と、被削材の成分が反応しやすい(親和性が高い)と、やはりすくい面摩耗は大きく発達します。
対策
- インサートが超硬合金材種の場合は、コーティング材種に変更する。
- 切削速度と送り速度を下げて、摩耗の発達を遅らせる。
- すくい角を大きくする。
構成刃先
原因
構成刃先は、ターニング時に起こりやすい損傷で、加工硬化した被削材が切れ刃の先端に付着したものです。一般に溶着・凝着したものと同じですが、この付着物は非常に硬いため、それ自体が刃先の役割をします。主に以下の原因が考えられます。
- 切削温度が低く、被削材の再結晶温度までに達しない場合。
- 工具材種と被削材の親和性が高い場合。
対策
- 切削温度を上昇させるため切削速度を上げる。
- 付着物の堆積を防ぐため、すくい角を大きく取る、ホーニングを小さくする、潤滑性の高い切削油剤を使用する、などを実施する。
- 工具材種をサーメットやコーティング材種など被削材との親和性が低いものに変更する。
切込み境界部の損傷
原因
切れ刃の切込み境界部は、材料の加工硬化層や鋳物の鋳肌、鍛造品の焼き肌などが影響して大きく発達します。切削加工によって塑性変形した被削材表面付近は、加工硬化によって硬くなります。その部分を削ることになる切込み境界部は、切れ刃の他の部分よりも損傷が大きくなるのです。鋳肌や焼き肌も同様に表面付近が硬くなっていますので、切込み境界損傷を助長します。
加工硬化しやすい材料や、鋳物、熱間鍛造品、熱処理品などを加工する際には、主切れ刃の切込み境界損傷に注意する必要があります。
前切れ刃の逃げ面などに見られる酸化損傷は、切れ刃が高温にさらされ、工具の表面組織が不安定になることにより起こります。
そのため、この酸化損傷は、切削熱が高くなる強さやネバさを持った材料や、熱伝導率が低い被削材を切削するときによく見られます。
対策
次のような対策で切りくずの厚みが減少し幅が広がるため、硬くなった被削材の表面部分を切れ刃に対して分散することができます。
- 切れ刃の横切れ刃角を大きくする。
- インサートのコーナRを大きくし、切込み量をコーナR内に設定する(コーナRの値より小さくする)。
- 難削材で切込み量が必要な場合は、丸形インサートを選択する。
欠損
原因
刃先の欠損は、一般に衝撃によっておこります。切削加工とは、被削材と切削工具との衝撃と摩擦の繰り返しですから、どんな被削材を切削していても、工具は欠損を生じる可能性があるのです。
特に、硬い材料を削る場合、その衝撃が大きくなりますので、切削初期での欠損に注意しなければなりません。
対策
- 工具材種を軟らかいものにする。
- インサートのホーニングを大きくする。
- 可能であればコーナRを大きくする。
- すくい角を小さくして切れ刃の強度を確保する。
- ランドの大きなチップブレーカに変更する。
- 強断続切削の場合は、送り量を下げることや、シャンクサイズを大きくして工具の剛性を確保する。
チッピング
原因
チッピングとは、切れ刃稜線部に生じる微小欠損のことで、振動や衝撃によって起こりますが、溶着した被削材が脱落する際に、一緒に刃先の一部を持ち去ることで起こる場合もあります。ですから、チッピングは、硬い被削材を切削する場合にも、軟らかい被削材を切削する場合にも生じうるのです。
切れ刃にチッピングが生じると切削抵抗が高くなるため、逃げ面やすくい面摩耗を発達させます(チッピング摩耗)。
対策
- 軟らかい工具材種に変更する。
- インサートのホーニングを大きくする。
- 可能であればコーナRを大きくする。
- すくい角を小さくして切れ刃の強度を確保する。
- ランドの大きなチップブレーカに変更する。
- 強断続加工の場合は、送り量を下げることや、シャンクサイズを大きくして工具の剛性を確保する。
割損
原因
刃先が大きく割損するような場合、その要因は被削材の機械的性質による部分は少なく、切削条件や工具形状、工具材種を見直す必要があります。特に工具の取付けに方に問題があるときに生じやすい損傷です。
また、インサートとシートの形状が大きく異なっている場合もその要因となります。いずれにしろ、工具の取付け方や形状、組み合わせを見直すのが肝要です。
対策
取付け状態を確認します。
- インサート取付け部のよごれを取り、適正な取り付けを行う。
- 適正トルクで締め付ける。切削条件を下げる。
- 被削材の取り付けや機械の振動をチェックし、ビビリ振動の発生しない切削条件で切削加工をする。
フレーキング
原因
フレーキングとは貝殻状の欠けのことで、以下のような原因が考えられます。
- 切削部における被削材の弾性変形によって。切れ刃に圧縮応力が生じて起こる。
- 溶着物や凝着物が剥がれる際に剥離が起こる。
フレーキングが工具寿命につながる代表的な事例は、高硬度材の切削です。高硬度材の切削では、背分力は非常に高くなる傾向があり、このことが切れ刃に圧縮応力を生じさせます。背分力により逃げ面方向から受けた応力がすくい面にフレーキングを生じさせます。
対策
高硬度材料の切削によって生じるフレーキングを防止するのは非常に困難です。切削抵抗を下げれば良い結果が得られるはずですが、ホーニングを小さくしたり、すくい角を大きくすることは切れ刃強度を下げてしまうので、得策ではありません。
- 送り量と切削速度を下げて、逃げ面摩耗抑制を有効にする。
- コーナRを小さくする。
これは、高硬度材料の切削は、もともと取り代の少ない仕上げ加工が多いのですが、コーナR内の微小切込みの場合、背分力が上がる要因となるためです。
溶着
原因
被削材成分の刃先への溶着は、切削熱で溶けやすい軟らかい被削材を切削する場合に生じやすくなります。
また、すくい面摩耗と同様に、被削材と工具の親和性が高いと、この溶着は起こります。
溶着が発達すると、構成刃先となって工具の摩耗を遅らせるといった利点も考えられますが、仕上げ面の悪化や、刃先のチッピングを招くなど、より大きな問題に発展する可能性のある現象ですので、できる限り避けた方が良いでしょう。
対策
- 切削速度を上げる。
- アルミ合金は、弾性変形によって逃げ面にも溶着を起こすので、鋼や鋳鉄を加工する通常の加工より逃げ角を大きくする。
- 切りくずの流れを良くするため、すくい面を鏡面仕上げにする。
塑性変形
原因
刃先の塑性変形は、切削抵抗によって生じるのですが、抵抗力だけで押し曲げられるというのはまれで、ほとんどの場合、切削熱による刃先の軟化で、大きな変形が起こりやすくなります。
切削熱が上がりやすい材料や、熱伝導率が低い材料を切削するときは、刃先の塑性変形が生じやすいのです。
対策
- 工具材種を硬いものに変更する。
- 切削熱を抑制するため、切削条件を下げる(切削速度、送り量を小さくする)
- コーナRを大きくする。
- 切削油剤を使用する。
熱亀裂
原因
熱亀裂(サーマルクラック)は、熱衝撃によって発生します。この熱衝撃とは加熱と冷却を短時間で繰り返す衝撃のことです。このような状況下では、どんな物質でも加熱による膨張と冷却による収縮を繰り返すことになります。この熱衝撃によって生じる膨張/収縮の連続が、工具材料の粒子の境界面*に亀裂を発生させます。
熱亀裂は、欠損などの突発的な損傷につながる可能性があります。
切削熱が高くなる被削材を切削するときに生じやすいものですが、断続切削や湿式切削などの切削条件が発生を促す要因となります。
対策
次の対策が効果があります。
- 切れ味の良いフェースミーリングカッタを使用し発熱を極力抑える。
- 工具材種は耐熱衝撃性の高い材種を選択する。
- 湿式切削からエアブローに変更する。
- 湿式切削の場合は、切削油剤をできるだけ多く間断なく使う。
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