被削材の切削加工のしやすさのことを材料の「被削性」と呼びます。「被削性の良い材料」とは 「削りやすい材料」のことを、反対に「被削性が悪い材料」とは「削りにくい材料」のことをさします。
この「被削性」については、加工する工具の寿命や、切りくず処理の難しさ、寸法精度の出しやすさ、加工面の仕上げやすさなどおおくの判断基準が存在しています。
これらの判断基準には、加工方法、使用する工作機械や切削工具、切削条件などのさまざまな要因が関与しています。ここでは、被削材自身の機械的特性が及ぼす影響について考えてみます。
以下をクリックして学習しましょう!
かたさの影響
被削材が硬いと、切削工具の摩耗が発達しやすくなります。また、切れ刃が被削材に接触するときの衝撃も大きくなりますから、切削抵抗も高くなります。
反対に被削材が軟らかいと、被削材の成分が溶けて刃先に付く溶着・凝着と呼ばれる現象が起きます。この溶着・凝着は、刃先の一部とともに脱落することでチッピングを招き、さらには欠損などの異常損傷や、仕上げ面あらさの悪化に発展する可能性があります。また、、軟らかい材料は切りくずが分断されにくい上に、仕上げ面が傷つきやすいので、切りくずの処理も考慮しなければなりません。
被削材のかたさは、硬すぎても軟らかすぎても切削しやすいとはいえず。180~200HB程度のかたさが、切削にちょうど良いといわれています。
ネバさ*(=切り取りにくさ)の影響
被削材のネバさは、切削抵抗につながります。ネバい材料は、刃先で切り分けにくく、切削抵抗が高くなるのです。また、材料がネバさを持っていると切りくずが分断されにくくなるため、切りくず処理にも注意が必要になります。ネバい材料を切削する際は、切りくずが破断するときに大きな振動を伴うことがあるため、刃先のチッピングに注意しなければなりません。
強さ(=変形しにくさ)の影響
被削材の強さも切削抵抗に影響を与えます。材料の強さとは、歪みにくさのことです。切削加工は、被削材を変形させながら切り取る加工ですので、変形しにくい強い材料は、切削抵抗が高くなります。切削抵抗が高くなると、刃先に大きな負荷がかかるため、刃先の塑性変形*が生じやすくなります。また、切削抵抗が高いと、発生する切削熱も高くなるため、酸化損傷なども見られるようになり、工具材料と切りくずが反応して、すくい面摩耗も発達します。
展延性の影響
展延性が良い材料は、切りくず処理が常に問題となります。切りくずが分断できないのはもちろん、材料自体が軟らかいことが多く、伸びた切りくずで仕上げ面に傷がつく可能性があります。
熱伝導率の影響
熱伝導率が低い材料を切削加工すると、切削熱が切りくずや被削材に拡散せず、刃先が非常に高温になります。
刃先が高温になると、工具材料の高温かたさが低下し、摩耗損傷が発達する要因となります。また、刃先の軟化による塑性変形量も大きくなり、より大きく摩耗が発達することになります。
逆に熱伝導率が高い材料を切削する際は、はさきの熱は切りくずに持ち去られたり、被削材に拡散したりすることで、切れ刃は熱の影響を受けにくくなります。
加工硬化性の影響
加工硬化とは、塑性変形に伴う材料の硬化現象のことであり、ほとんど全ての材料が、この加工硬化性を持っています。加工硬化しやすい被削材を切削加工すると、切削加工によって加工硬化した部分を後から削ることになりますので、かたくなった部分で工具がこすられるような損傷が生じます。切込み量や送り量が小さいときは、刃先のこすり摩耗が発達しますが、切込み量を大きくとっても切込み境界部に硬化した部分が当たることにより、境界摩耗が生じるようになります。
親和性の影響
親和性とは、物質同士の結びつきやすさ、相性の良さのことです。親和性が高いと、切削熱で高温となった刃先と被削材が反応しやすくなり、溶着やすくい面摩耗が促進されます。
硬質粒子の影響
材料の中に炭化物や酸化物などの硬質粒子が存在すると、工具は硬質粒子によって引っかかれたような損傷を起こします。
また、硬質粒子を多く含む被削材は、かたさが高くなりますので、逃げ面摩耗を促進させます。
x