FOCUS on PERFORMANCE vol.10

ブラザー工業株式会社 × 三菱マテリアル株式会社

ブラザー工業株式会社 × 三菱マテリアル株式会社

どこまでも生産性を追求し続ける小型工作機械「 SPEEDIO」シリーズとの共闘で未知の分野を切り開く

文字通り切っても切れない存在である工作機械と工具。それぞれのリーディングカンパニーであり、ともに創業100年以上の歴史を誇りながら、なかなか深く交わることがなかったブラザー工業株式会社と三菱マテリアル株式会社。両社の製品を直接つなぐ一体型ホルダの開発からはじまり、共同でのプロモーション活動、そして新たな分野への挑戦まで、ともに進化を目指す道のりを模索しはじめました。今回の座談会では、その繋がりの中心にいる方々にご登場いただきます。

創業から1世紀以上。小型工作機械事業も60年の歴史

 1908年、ブラザー工業の歴史はミシンの修理業からはじまりました。それから100年以上が経った現在、ミシンの販売シェアは家庭用・工業用ともに世界トップクラスを誇り、プリンターや複合機の分野でも業界を牽引しています。

 1962年には、その優れた技術を活用してネジ穴加工用のタッピングマシンを生産開始。1985年にはタッピングマシンをプログラム制御する「NC装置」を組み入れた「CNCタッピングセンター」を発売し、以後はマシン部分と制御装置を一貫して自社開発することを強みとしてきました。

 「マシンの動きを熟知している技術者がNC装置を開発するからこそ、徹底的に無駄な動きを減らすことができるのです。さらにブラザー工業の小型工作機械はBT30番に特化し、長い歴史のなかで0.1秒でも早く削れるよう、生産性を追求し続けてきました」と話すのは、名古屋営業所の霜平健太氏。切削スピードだけには留まらず、従来のBT30番よりも大きな加工物や加工負荷の高い加工に対応できるよう試行錯誤を続けてきたと説明します。

 初期の「CNCタッピングセンター」では、万能な工作機械が主流のなかであえて余分な機能を削除し、タップ加工の生産性に的を絞っていましたが、時代に合わせて柔軟にミーリング加工やファインボーリング加工にも対応。パソコンや携帯電話が世界中に普及するなか、IT機器産業に欠かせない小型工作機械として、日本や中国の市場を中心に確固たる地位を築いていきました。

「SPEEDIO」ブランドへの発展と三菱マテリアルとの関わり

 ブラザー工業におけるマシナリー事業の大きな転換期となったのが、2013年に登場したコンパクトマシニングセンタ「SPEEDIO(スピーディオ)」ブランドです。BT30番ならではの高生産性を追求した「Sシリーズ」を皮切りに、旋削機能を搭載した「Mシリーズ」、高速2面パレットチェンジャー搭載の「Rシリーズ」、BT30番クラスで最大級の加工エリアを誇る「Wシリーズ」などを次々と世に送り出し、現在では確固たるブランドを確立しています。

 「やはりBT30番の最たる特徴は高い生産性でしょう。市場にも好意的に受け入れられていた『SPEEDIO』の登場から、シェアは右肩上がりに伸びている状況です。常に新しい加工技術が求められるなか、それに対応しながら生産性を向上させるため、毎年のようにバージョンアップを繰り返してきました。そうした工作機械の進化に欠かすことができないのが、工具の進化です」と話すのは、開発1グループの廣瀬雄之助氏。工具メーカーとの繋がりを重要視するなか、三菱マテリアルとの関係については「フライスカッタなどの品質の高さは『SPEEDIO』が登場する以前から社内でも評判でしたが、数年前までは共同で何かを行うようなプロジェクトはありませんでした」と明かします。

 それについて、三菱マテリアル技術営業部ツーリングマネジメント室の北村敦氏は「私たちも数年前まで、BT30番の可能性を全く理解できておりませんでした。難削材などの加工には適していないイメージがあったのですが、それは誤りであったと今では十分に理解しています」と答えていました。
 

SPEEDIO Sシリーズ
S300Xd1/S500Xd1/S700Xd1


2013年に発売を開始したベストセラーシリーズ。
2022年には約3年ぶりのモデルチェンジを行い、最新のCNC装置と大型タッチパネルにより直感的な操作性を向上させています。さらに使用できる工具の質量も4kgに大幅にアップ。使用工具の幅が広がったことで、これまで以上に自動車やIT機器などの部品加工において高い支持を集めています。

左から)ブラザー工業株式会社 マシナリー事業 産業機器営業部 国内営業グループ 名古屋営業所 霜平健太氏 / ブラザー工業株式会社 マシナリー事業 産業機器開発部 開発1グループ 廣瀬雄之助氏 / 三菱マテリアル株式会社 営業本部技術営業部 ツーリングマネジメント室 北村敦氏

「iMX BT30一体ホルダ」の開発を契機に協力体制を強化

 これまで深い繋がりを持たなかった両社が協力体制を築くことになったのは、廣瀬氏と北村氏の出会いからでした。2019年、初対面を果たした際に廣瀬氏から「工具ホルダを経由せず、iMXエンドミルシリーズのヘッドと『SPEEDIO』を直接つなぐ、新しいBT30一体式ホルダを開発できないか?」という提案を受けたのです。

 その願いを現実にするために、さっそく北村氏のもとで新ホルダの開発がスタート。約2年の開発期間を経て、2021年に独自の締結機構を備えた「iMX BT30一体ホルダ」の試作品が完成しました。

 その性能について廣瀬氏は「当初こそ他メーカーの類似製品と大きな差はないだろうと予想していましたが、実際に使用してみると振動の少なさだったり、切削中に出る音の心地よさだったり、その精度の高さに驚かされました。随所から工具の確かな進化を感じたことで、皆さまの開発意欲の高さまで伝わってきました」と話します。

 テーパと端面による2面拘束システムや、ねじ部に鋼を特殊接合する独自技術などにより、高剛性を実現しているヘッド交換式エンドミルiMXシリーズ。その高負荷切削を可能とする強みはそのままに、ヘッドと『SPEEDIO』を直接つなぐホルダの開発によって、さらに安定性が向上しました。それは三菱マテリアルとブラザー工業を結びつける架け橋とも言える存在にもなるのです。
 

ホルダによって結ばれた両社の技術で難削材の加工に挑戦

 年々パワーが上がり続け、BT40番と遜色のない加工が可能となった『SPEEDIO』。なかでもBT30番史上で最高クラスの高剛性を実現しているのが「Fシリーズ」です。しかし工作機械のパワーがどれだけ高くとも、工具やホルダに剛性がなければ能力をフルに発揮することはできません。そこで「iMX BT30一体ホルダ」の開発から関係を深めたことを契機に、ブラザー工業と三菱マテリアルのコラボレーションによるプロモーション活動に発展します。

 「まずは難削材を得意とする『SMART MIRACLE エンドミルシリーズ』をご使用いただき、ステンレスなどを加工するデモンストレーションを行いました。実機での加工を拝見すると、加工スピードの速さはBT40番のマシンを凌駕していたのです。これまでの感覚とは全く異なるスピード感に圧倒されました」と当時を振り返るのは鷲見壮史氏。技術営業部のツーリングマネジメント室が一丸となり、工具選定だけでなく加工条件や工程の検討まで包括的なツーリングサポートを提案したと言います。

 さらにプロモーションを担った行時正人氏によれば「実際の加工事例を動画に収めてWEB上で公開するなどのアプローチだけでなく、我々としてはこれまで未開拓だった分野に挑戦するためのファーストステップでもありました」といった狙いの通り、次世代に向けた取り組みのきっかけにもなるのです。
 

SPEEDIO Fシリーズ
F600X1


従来機の高生産性に高い加工能力をプラスした高剛性設計のFシリーズ。ステンレス鋼をはじめチタン合金やプリハードン鋼など、難削材を加工するのに適しています。

同時5軸加工機能を活かした医療系部品の未来

 現在、『SPEEDIO』が活躍する主力分野は自動車産業であり、業界全体がEVへのシフトを視野に入れる先行き不透明な時代のなかで、新しい分野に進出しようとする機運がブラザー工業内でも高まったと言います。そこで発足されたのが主に医療関係の部品をターゲットとするチームです。

 プロモーションチームの伊坪靖洋氏は「当時はまだ医療分野についての知見が足りず、何から取り掛かれば良いのかも分からない手探りの状態でした。そんななかで三菱マテリアルの医療分野のスペシャリストが、アメリカやヨーロッパなどの現場で評価を得たものを中心とした多種多様なプレゼンテーションをしてくれました」と振り返ります。

 そうしたやり取りのなかで飛び出したアイデアが『Mシリーズ』の同時5軸加工機能をフル活用した人工膝関節(Knee)の製作。日本だけでも1000〜3000万人の患者がいると推計されている変形性膝関節症をはじめ、リウマチなどにより変形した膝関節の代用品として開発された製品です。非常に複雑な曲面加工が求められる医療部品であり、長期間に渡り人の体内で使用することから、非常に高い精度と確実な安全性が求められます。人工膝関節手術の件数は年々増加傾向にあり生産性も求められることから、まさに『SPEEDIO』を活用するのに最適な対象でした。チタン合金を使用していることから難削材に分類されるため、高剛性かつ長寿命であり高能率加工に優れた三菱マテリアルのSMART MIRACLEエンドミルシリーズも活躍することになります。
 

SPEEDIO Mシリーズ
M200Xd1/M200Xd1-5AX


ミーリング加工や旋削加工など、さまざまな工程を1台に集約できるマルチタスクモデル。2022年には複合加工だけでなく同時5軸加工にも対応した「M200Xd1-5AX」が登場し、より複雑な曲面の加工を可能としています。

左から)ブラザー工業株式会社 マシナリー事業 産業機器営業部 ソリューショングループ マーケティングチーム 行時正人氏 / ブラザー工業株式会社 マシナリー事業 産業機器営業部 ソリューショングループ プロモーションチーム 伊坪靖洋氏

これからの自動車産業と『SPEEDIO』の現在

 医療系部品への挑戦を続けながらも、やはり『SPEEDIO』の主要的なターゲットは自動車産業であることに変わりはありません。このままEV化が進めばアルミ部品などは大型化、複雑化することになり、さまざまな角度から加工ができるマシニングセンタのニーズが高まることが予想されます。

 そこで2022年に登場したのが、BT30番ながら治具エリアφ500という大型傾斜ロータリーテーブルを標準搭載した「Uシリーズ」です。初となるモデル「U500Xd1」では、従来のBT30番と同様のコンパクトさと高い生産性を保ちながら、5軸の割り出し加工にも対応しており、小型モーターケース、バッテリーケース、ギアケースカバー、ベアリングシールド、ポンプ、ハウジング、インバーターケースなど、多岐にわたるEVの部品を生産することができます。

 まだまだ黎明期であるため予期せぬ加工中の仕様変更が多発しているEVの生産現場。従来の3軸加工では、場合によって0から仕様を考え直さないといけない場合でも、5軸の割り出し加工であれば、どの方向からも自由自在に対応できるため、より柔軟に問題を解決できるようになります。

 また加工が複雑化するなかで、使用する工具の本数が増えていることにも着目し、従来は14本や21本だったマガジンを、「U500Xd1」では28本としたのも大きな特徴です。ツーリングマネジメント室の北村氏も「ブラザー工業の皆様と共同で行ったデモンストレーションでも、実は工具の取り付け本数が足りないことがありました。加工自体に問題はないのですが、1つの工具に複数の工程を割り振る場合、どうしても無理が生じる可能性があります。28本もマガジンがあれば余裕を持った複合ツールが設計できますので、それだけトラブルを回避できるでしょう」と高く評価していました。その一方で懸念点もあり「マガジンに搭載する工具が増えれば、それだけ総重量もシビアになるでしょう。工具をどれだけ軽量化できるかが、今後の大きな課題になると思っています」と、小型工作機械の進化に合わせて新しい工具を開発する必要性を語ります。

 消費電力量、エア流量、クーラント量など全ての無駄を削ぎ落としている『SPEEDIO』。大型の工作機械だけでなく、他メーカーのBT30番のマシニングセンタと比較しても、省エネ性能は業界トップクラスです。そもそも環境負荷を削減するカーボンニュートラルの流れからはじまったEV化。その転換期のなかで、『SPEEDIO』はこれまで以上に存在感を増していくでしょう。

SPEEDIO Uシリーズ
U500Xd1


設置スペースや生産性は従来機種と同等のスペックを維持しながら、5軸の割り出し加工を可能としたユニバーサルモデル。治具エリアが最大限に広くなるよう設計した傾斜ロータリーテーブルを標準搭載しています。

両社が共に進化し続けるために

 2023年には、ブラザー工業初となるBT30番では非常に貴重な横型マシニングセンタ「Hシリーズ」が登場。こちらも機械幅は従来のシリーズと同程度に抑えながら、干渉を避ければφ800程度まで対応できるという大きな治具エリアを実現しています。

 廣瀬氏は「従来のシリーズでは難しかった大型ワークや長尺ワークが可能となり、今後もますますBT30番の活躍は広がります。その能力を100%発揮するためにも、より三菱マテリアルの皆さまとの関係性を深めていければ嬉しいです。私達はまだまだ勉強不足の分野が多く、例えば航空機産業など未開拓の分野などで、是非とも皆さまのお力をお貸しいただければと思っております。ともに歩みながら、ともに進化を続けていけるような関係性を目指せるように願うばかりです」と、両社の連携を強化する必要性を語っていました。

 それに対し、まだまだ三菱マテリアルにある魅力的な製品群を伝えきれていないと感じていた安城営業所の村上寛斗氏は「EV部品だけでなく航空産業などでのアルミニウム合金の加工では、軽量化と高剛性を両立させている高能率正面削りカッタ『FMAX』がお役に立てるはずです。加工スピードを出すことに特化して開発したものですから、『SPEEDIO』との相乗効果も期待できます。今後は『FMAX』をベースとした新しい工具もお持ちいたしますので、是非ブラザー工業の皆さまにテストしていただきたいと思っています」と、胸を張って製品を紹介していました。

 三菱マテリアルの包括的なサポートについて行時氏は「2、3年前に私がタイに駐在している際には、現地のナショナルスタッフだけでなく、WEB会議などを通じて皆さまにサポートしていただけたおかげで非常に助けられました。インドやベトナムでも同じようにお客様の対応をお手伝いしていただけたほか、国内で行ったデモンストレーションでも、総合的なレイアウトをご提案いただいております。今後も同様にお力添えをいただければ非常に心強いです」と、過去の事例を振り返りながら今回の座談会をまとめてくれました。

SPEEDIO Hシリーズ
H550Xd1


本体はコンパクトなまま主軸の配置を横向きにすることで大型・長尺ワークの加工を実現した横形マシニングセンタモデル。BT30番ならではの高い生産性による部品の多面加工や大型部品の加工を可能としています。

左から)三菱マテリアル株式会社 営業本部技術営業部 ツーリングマネジメント室 鷲見壮史氏 / 三菱マテリアル株式会社 営業本部国内営業部 東海ブロック 安城営業所 村上寛斗氏