矢野 雅大  宮下 庸介

cBN Tools and Wear Mechanism in the Turning of Hardened Steel

Masahiro YANO  Yosuke MIYASHITA

抄録

 立方晶窒化ほう素(cubic boron nitride: cBN)を原料とし超高圧焼結により製造されるcBN 焼結体は,鉄系構造材料の切削工具として現在幅広く利用されている。切削工具に求められる課題の一つとして,生産性向上にむけた工具の長寿命化が挙げられる。工具寿命は被削材と工具との摩耗による損傷に掛かるところが大きい。工具刃先で生じる摩耗機構の解明のため,cBN焼結体工具にて高硬度鋼を切削し,切削速度の変化,及び焼結体中のcBN含有量の違いが工具摩耗形態に与える影響ついて評価を行った。その結果,本試験条件においては,cBN含有量が大きいほど逃げ面摩耗の進行は速くなるが, 切削速度による主な摩耗原因はcBN含有量に関わらず切削速度vc=1.67 m/sec とvc=2.50 m/sec の間で機械的摩耗から熱的摩耗に変わっている可能性が高いことがわかった。また, クレータ摩耗はcBN含有量が少ないほど進行は速くなることがわかった。

Abstract

 cBN sintered compacts are widely used as cutting tools of ferrous materials. From the view point of tool life, it is important to understand wear mechanism of edge damage such as flank wear, rake wear and edge chipping. In this paper, we investigated the effects of cutting speed and cBN content of sintered compact on wear damage pattern. Wear damage pattern was examined using microscope, scanning electron microscope and confocal laser scanning microscopy. As the results, wear damage pattern on flank face changed from mechanical damage to thermal damage between cutting speed 1.67 m/sec and 2.50 m/sec regardless of cBN content. The progress of crater wear was depending on cBN content.

1. はじめに
 立方晶窒化ほう素(cubic boron nitride: cBN)は,ダイヤモンドに次ぐ硬さを有すること,高温下での鉄に対する反応が低いこと,酸化温度がダイヤモンドに比べ高い1) ことなどの特性を持つことから,鉄系材料用の加工工具材料として利用されている。工具としての利用の方法は,cBN粒そのものを研削砥粒として用いる場合やcBN 粒を金属結合相やセラミックス結合相と混ぜ合わせた粉を高圧下で焼結し得られるcBN焼結体を切削工具の刃先として用いる場合が主に挙げられる。図1 にcBN焼結体工具の一例として,切削工具用のcBN焼結体インサートを示す。これら工具の刃先を形成するcBN焼結体は,切削加工する材料に適切な焼結体の機械的特性を,cBNの粒径や含有量,セラミックス結合相の成分などの組みあわせにより,制御することができる。

 例えば,微粒のcBN粒と窒化チタンやアルミナを主成分としたcBN 工具材種MB8025は,高硬度鋼の切削において,中速連続加工から高速断続加工まで広範囲の切削領域で用いることができる。また,cBN焼結体工具においては,材料の耐欠損性と耐摩耗性を高い次元で両立させるため,専用のcBN焼結体にセラミックスコーティングを施した工具が主流となってきている。cBN工具材種BC80202) においては,cBN粒の含有量を大幅に増加させることによる耐欠損性の向上と,結晶性の良いcBN粒子を用いた専用cBN 焼結体の上にセラミックコーティングを施すことで,刃先に高い負荷がかかる切削においても,工具の長寿命化と高能率加工化の両立を実現している。

 近年構造材の種類や形状は多様化しているが,cBN焼結体工具への要求の一つとして,生産性向上に向けた対応が求められている。有効な対応の一つとして切削速度の高速化が挙げられるが,単純に切削速度を速めるだけでは工
具刃先への負荷増大による寿命低下をまねき,生産能率を落とす可能性がある。工具の寿命は,工具刃先の摩耗量に
より判断されることが多く,工具刃先で生じる摩耗機構の解明が重要である。切削速度の高速化の観点からは,鋳鉄
加工時の摩耗挙動についての研究報告が多くなされている3-6)。一方で高硬度鋼の加工についてはそれほど多くはない7)

 そこで本稿では,cBN焼結体工具による高硬度鋼の切削において,cBN焼結体組成や切削速度の変化が工具摩耗形態に与える影響について検討した。

ものづくり・R&D レビュー 第3号(2014)掲載

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